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■優秀な研究者が逃げ出した後
ソニーはシャープ、三洋電機と並んでﾔニッポン家電崩壊ﾕの象徴になってしまうのか。'12年３月期決算までに４期連続の最終赤字、テレビ事業に至っては'05年２月期から８期続けての損失計上と、もがいてももがいても沈むばかり。
４月に背水の陣で登板したＣＢＳソニー出身で非技術系の平井一夫社長兼ＣＥＯは、早速、「ソニーを変える。ソニーは変わる」と宣言し、「デジタルイメージング（カメラ）」「ゲーム」「モバイル」の三つのコア事業に経営資源を集中させる考えを発表した。同時に'12年度中に、公表する必要もないのに国内外で１万人の人員削減を行う方針も明らかにした。
平井社長はこれまでに、シャープとの液晶パネル合弁事業を解消し、化学事業は日本政策投資銀行に売却することで同行と合意した。光ディスク事業の撤退も決めた。エリクソン（スウェーデン）と折半出資の携帯会社はソニーが完全子会社化した上で、現地の開発拠点を縮小。インターネットサービスプロバイダー大手のソネットも100�融匆饉匆修妨�けたＴＯＢ（株式公開買付）に乗り出した。
ただ、肝心の不振を極めたテレビ事業については、必死の止血策がようやく途に就いた段階だ。８月２日の'12年度第１四半期決算を見る限り、販管費の抑制などで「営業損失は半分以下に改善」（橋谷義典ＩＲ部門長）したものの、密かに皮算用していた五輪特需は空振りだった。
テレビの年間販売台数想定も、日増しに強まる欧州・中国景気の減速を受けて、５月の想定時より200万台少ない１千550万台への下方修正を迫られた。今後の事業環境の推移によっては、現在のリストラメニューではカバーし切れない大出血の事態が再び起きる可能性が高まっている。
何より、かつての「ソニーらしい新商品」の萌芽すら見えない。コアと称するモバイル分野に限っても、米アップルや韓国サムスンの背中は遠ざかるばかりだ。
こうした中、７月１日付で社内の電気、機械、化学、素材、医学といった分野の技術者およそ100人で構成する横断的な新研究開発チームが立ち上げられたことが一部で報じられた。だが、およそ20年に亘ってものづくりを軽視し、優秀な研究者やエンジニアがことごとく逃げ出した後の残存兵力で、「世界中をアッといわせる革新的で魅力ある商品」（平井社長）を世に送り出せるのだろうか。はっきりいって、市場はソニーに何も期待していない。
ソニーは、なぜこれほど落ちぶれてしまったのか。コックピットの操縦席にサルでも座ったのか。
■「出井詣で」に力を注いだ結果
凋落を招いた要因についてはソニーの黄金時代を知るＯＢらが様々に指摘しているが、最大の病巣は裏付けが薄くても派手な言動で経営トップなど上の覚えをめでたくすれば、出世できるという社内力学にあった。しかも、その提案や案件が上手くいかなくても、猫の目のように変わる組織変更と人事異動とで責任の所在はうやむやになるのが常だった。
そうしたヒエラルキーの頂点に立っていたのが、出井伸之ソニーアドバイザリーボード議長だ（社長→ＣＥＯ＝最高経営責任者→会長兼ＣＥＯ→最高顧問、アドバイザリーボード議長→現職）。実際、盛田昭夫、井深大という２人の創業者が力を注いだ「自由闊達にして愉快な理想工場の建設」は、開発や製造の現場を知らず、営業トークだけでトップに上り詰めた出井社長時代に大きく歪んだ。
「フェリカ」（ソニーのエディ、ＪＲ東日本のスイカ）などの国際標準化に貢献し、'08年に内閣総理大臣賞を受賞した元ソニー技術渉外統括室長の原田節雄氏（'10年12月退社、65歳）は、この９月『ソニー失われた20年』（さくら舎刊）を出版し、関係者の間で評判になっている。
その原田氏が語る。
「盛田さんなどはいろは坂を登るように会社の全体をみてトップに就いた。出井さんは営業畑だけではしごを一直線に登ってトップになった。ところが、ストリンガーさんとか平井さんは、ある日突然、ヘリコプターで運ばれて頂上で降ろされたようなものです。
出井さんは'03年に従来の取締役会の姿を変え、委員会等設置会社に移行し、企業運営の命運をソニー外部の人間を中心とする少人数で操る委員会に移しました。取締役と執行役を分断するのは、日本では人間の頭脳と手足を分離するようなもので、まったく愚かなことです」
ソニーはその結果、どう変わっていったか。
出井社長に取り入ることが出世の近道となり、多くの幹部は汗と時間とお金のかかる「ソニーらしい新商品」をゼロから生み出すことよりも、短期に数字（利益）が出せる金融やＩＴ絡みのアイデアを携え、「出井詣で」に力を注いだ。傍流意識と自己顕示欲の間で揺れ動く出井社長も、それを喜んで受け入れた。
■取締役と執行役の総入れ替え
昨年４月に亡くなった大賀典雄元社長・会長が犯した最大の過ちは、その意味で出井議長を末席役員から引き上げ、後継者に選んだことにある。大賀元会長自身も晩年は、この時の決断を振り返っては「反省ばかりしていた」との証言が伝わっている。いまも草葉の陰から悔み続けているに違いない。
トップの側近（常務クラス）には無能な人ばかりが集まり、その下の部長クラスには優秀な人材がいるにもかかわらず、有効に活用できない組織になってしまったのである。
経営トップに人を得ず、過去の栄光の上にあぐらをかき続けた結果は、残酷なほどに明快だ。ソニーの場合、ものづくりの源泉であり、ソニーの拠り所である研究開発力の低迷に端的に現れた。ソニーの技術基盤で今も胸を張れるのは、「プロ用放送機器などごく一部。他は既存技術の延長線上にあるものが大半で、先進性や将来性をあまり感じない」（産業紙デスク）のが現実だ。
その意味で、平井社長が現在取り組んでいるのは、死者を蘇らせようというオカルトか、死んでいないと思い続ける宗教に近い。
「いま平井さんがやるべきことは、取締役と執行役の全員入れ替えと、テレビ開発事業部門を緊急避難措置として廃止→他社からの生産販売に完全に切り替えることです。
テレビ開発事業部門の優秀な人材を密かに選別して他の部署に移して、ディスプレー技術は残しておく。少なくなった人数は、他のエレクトロニクス部門からの不要な技術者で埋めておく。その上でテレビ開発事業部門を中国などに高く売りつけるような、したたかなビジネスがタイミングよく出来れば、ソニーにチャンスは必ず出てくる」（前出、原田氏）
企業という組織が過ちを犯すのではない。そこをリードする経営者という人が過ちを犯すのだ。
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