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■首都圏で15万人が亡くなると
'11年３・11東日本大震災は、当時の菅直人政権をも崩壊させてしまった。国内観測史上最大となるマグニチュード（Ｍ）９・０を記録し、死者・行方不明者１万８千人を出した「国難」に、政府として納得のいく対応ができなかったためだ。
そしていま、政府の地震調査委員会は、今後30年間に70パーセントの確率でＭ７クラス以上の首都直下型地震が発生する、と警告を発する。３・11大震災以前に公表していた予想だが、政府は大震災から何を学んだのか。
地震分野に詳しいジャーナリストがこう語る。
「東日本大震災で、震源域のプレート（地球表面を覆う硬い岩盤）が50メートル以上も動いた。その影響で震源域の両端にあたる千葉県沖や青森県沖のプレートに急に圧力がかかった状態になっているため、地震が起こりやすい。こうした場所はホットスポットと呼ばれている」
政府関係者や研究者の中にはすでに事態を重くみて、いくつものシミュレーションやこれまでの歴史的経緯を調査して警告を発している。
なかでも、最も被害が甚大になると想定されていたのが、'88年に国土庁（当時、現在の国交省）が策定した予測で、首都圏で15万人が亡くなるという内容だった。被害想定が関東大震災の14万人を超える内容だったため、当初、部外秘にされていた。ところが一部の記者たちの突き上げにあって公表された、いわくつきの被害想定だった。
その後、直下型の阪神・淡路大震災（'95年１月17日）では、家屋倒壊による死者のほうが多かったことなどから、被害想定は修正された。
'05年、政府の中央防災会議がまとめたシミュレーションでは、震源や季節・天気・風向きの変化などによって地震発生時の状況を18パターンに分けているが、その中で最も危険なのが東京・江東区エリアを中心に起こる、「東京湾北部地震」だ。
さらにその地震が「冬の午後６時、風速15メートル、Ｍ７・３」という条件で発生した場合、火災で65万棟が焼け落ちるばかりか揺れや液状化で約15万棟が倒壊。全体では約85万棟もの住宅が全壊・消失する。
死者数は１万１千人、うち「火災」が６千200人と全体の約60パーセントを占め、続いて「建物倒壊」による死者が３千100人、さらに「ブロック塀などの倒壊」での死者が600人だ。
■東京湾から押し寄せる炎の波
東日本大震災と首都直下型地震が大きく違う点は、死者・負傷者の主な原因が火災であることだ。東京湾北部地震のシミュレーションでも、一番被害が大きいのは各家庭で夕食の準備をしたり、暖房器具を使用する「冬の夕方６時」だった。
加えて地震発生時により強い風が吹いていたとしたら、東京を焼き尽くすほどの大火災が発生する。火災は住宅地だけでなく、東京湾にも及ぶ可能性がある。東日本大震災では宮城県・気仙沼市で石油ターミナルの石油が海に流れ出して燃え、それが潮の満ち引きで「炎の波」となって押し寄せた。
'09年に国土交通省は「港湾において地震・津波により想定される課題と対策案」という報告書をまとめているが、このときも「石油が流出する」などと書かれていた。震災時の火災も恐ろしいことだが、加えて文字どおり東京湾まで「火の海」になったら、都内で被災した人が生き残る可能性はさらに低くなる。
電車やバスは止まり、帰宅困難者は東京で約390万人、神奈川が約110万人、千葉約82万人、埼玉で約67万人発生。トイレは足りず、発生から約２時間後に約81万７千人がトイレ待ちの状況に追いやられる。発生から６時間のうちに不足率は82パーセント、そのうち「何時間待っても利用できない状況になる」（中央防災会議事務局）という。
日本には'10年現在、法務省入国管理局によると944万３千700人の外国人が居住している。不法残留者数は、'93年の約30万人をピークに、'11年１月現在、約７万８千500人にまで減少している。だが、「なりすまし」など書類上は合法でも実態は違法な不法入国が中国人を中心に増加しているのだ。彼らは日本が"無政府状態"のときに、どう動くか。
そのとき、政府は機能しているのか。８年間、内閣官房副長官を務め、阪神・淡路大震災では「阪神・淡路大震災復興法案」をまとめあげる原動力になった石原信雄氏が語る。
「首都直下型地震で中央政府の機能が失われるという事態は残念ながら想定されていません。万全の対策はとっていても、全く機能しなくなることは絶対ありえない、とはいえません。総理大臣が指揮をとれなくなったらナンバー２、ナンバー２がだめならナンバー３というように、内閣法で決められています。ですからヘッドに誰かいれば内閣としての体裁はあります。首相官邸も残るでしょう。しかし、それでも手足になる人がいなくなると、政府としての機能は果たせなくなります」
■「東京圏の機能をバックアップ
３・11大震災で、「10メートルを超える津波は想定外だった」といわれたが、想定外ですむ話ではない。
政府が機能を発揮できなくなったときを想定して、一応、東京都立川市に米軍立川基地の跡地を利用した「立川広域防災基地」を整備している。各省庁などの防災関係機関の施設を集積した基地で、飛行場、医療施設、備蓄倉庫が備えられている。
緊急災害の対策本部の設置場所として、総理大臣官邸（地下１階の危機管理センター）、中央合同庁舎第５号館（災害対策本部本部長室）、防衛省本省（中央指揮所）、東京都庁舎（東京都防災センター。東京都総務局総合防災部）のいずれも被災した場合、国や都の災害対策本部予備施設として使用される。だが立川市は首都圏だ。
現在、国交省が東日本大震災復興構想会議の提言を受けて、東京圏の機能をどう分担し、あるいはバックアップしていくべきかを協議する検討会（座長、大西隆東大大学院教授）を設けて始動を始めた。年末の'11年12月９日に第１回検討会を開き、４〜５回の検討会を経て、バックアップ機能とはどういうものか、その場所はどこかなどについて検討をする。
群馬県あたりは誘致に熱心というが、栃木、茨城、静岡、長野も手を挙げることになりそうだ。
しかし、繰り返しになるが、想定外の最悪の事態を想定して対策を立てなければ危機管理ではない。
前出の石原氏が提案する。
「戦時中、本土決戦になったときを想定して、東京の参謀本部などの中枢が完全に機能しなくなった場合に対応できるように、日本を八つの地域に分けて、『地方総監府』を設置しました。首都直下型地震が起きて政府が機能しなくなったら、東北地区なり関西地区の広域連合の知事などが協議して対応していくのが、最も現実的ではないでしょうか」
時間はあるようで、ない。
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