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■東京が自然災害に世界一弱い
８月14日、熊本地震でただ１人行方不明となっていた大学生、大和晃さんが発見された。熊本地震による直接の犠牲者はこれで計50人となったが、'11年の東日本大震災や'95年の阪神・淡路大震災を踏まえ、世界が「地震大国・日本」に大きな関心を寄せている。
実際、東日本大震災の発生によって日本列島周辺は地震活動が活発になったといわれ、「これまで発生が危惧されてきた首都圏直下、房総沖、東海などの地震発生時期が早まった」と指摘する専門家も多い。'13年にスイスの再保険会社、スイス・リーがまとめた「自然災害リスクの高い都市ランキング」でも、「東京・横浜」は世界１位になっている。
最近、生物学者・評論家の池田清彦氏がこのランキングを改めてテレビで紹介し、話題になった。
「スイスの保険会社（スイス・リー社）が世界616都市の中で自然災害に一番弱い都市を調査、発表した。それによると、東京・横浜が１位、大阪・神戸が４位、名古屋が６位と、ワースト10のなかに日本の都市が五つも入っている」
ランキングは地震や洪水、嵐、津波などで被災する人数を推計したものだ。トップ10の大半は日本の各都市以外にマニラ（フィリピン、２位）やジャカルタ（インドネシア、５位）など大半をアジアの沿岸都市が占め、地震や洪水のリスクが大きいことを示していたが、一方で東京・横浜は「約２千900万人が大地震の影響を受ける」と指摘された。
その背景には東京で首都圏直下型の地震が起きる可能性が高いことがあるが、実際に政府の中央防災会議が東京でマグニチュード７の地震が起きた場合の経済損失を112兆円と算定している。これは福島第一原発事故を含む東日本大震災の被害額（約17兆円）の７倍近くだ。
だからこそ地震予知を含めた防災計画が重要なのだが、番組では池田氏と、地震学者として出演していた地震予知・火山津波研究部門長、長尾年恭東海大学海洋研究所教授がもう一つの危険について語った。
池田氏と長尾氏によれば、地震や台風も怖いが、それよりも壊滅的な打撃を受けるのは火山の爆発だと断言したのだ。今後、富士山が爆発したら火山灰が５〜10�足辰眦豕�に積もり、首都機能を麻痺させる。そうなれば東名・中央高速道や新幹線などの交通網も断ち切られ、日本が壊滅する恐れもあるという。
■最新機器を全減させる火山灰
長尾教授は「東海地震が起きたとき、高い確率で富士山が噴火する」と語る。直近の噴火は１７０７年の宝永大噴火だが、それはＭ８・５クラスの宝永地震発生から49日後のことだった。火山学者でもある長尾氏は「富士山は人間に例えれば20歳ぐらいの活火山だ。これまで300年以上も噴火しなかったのはむしろ異常だった」と警鐘を鳴らす。
そのうえで、富士山大噴火が起きた際の状況をこう予測する。
富士山噴火による農作物などへの直接的な被害は約２兆円だが、重要なのは西から吹く風にあおられて火山灰が関東全体に降り積もることだ。'10年にアイスランドで火山が噴火した際、ヨーロッパ全域の空港が閉鎖されたのは、ジェット機のエンジンに火山灰が入り込んで致命的な故障を引き起こすからだ。富士山が噴火したら、羽田空港や成田空港が数か月間は使えなくなる。東名高速などの物流もストップすれば、その経済的影響を予測することは不可能だ」
前出の宝永大噴火では東京地域に約５〜７�足辰硫仍崖イ�積もったという。雪と違い、火山灰は溶けないので被害が長期化するうえ雪の10倍の質量があり、除去するにも膨大な時間と労力が必要になる。
「世界的にもこれまで、ＩＴ化の進んだ近代都市が大規模な噴火に襲われたことはない。そのため問題が表面化していないが、火山灰がコンピュータの中に入り込んでキーボードが誤作動したり、コンピュータそのものがショートして使えなくなる可能性が高い。火山灰は非常に細かいガラスの破片で電気を帯びており、防水機能のない携帯電話などにも容易に入り込む。具体的な火山灰対策を取っている企業は少なく、ＡＴＭのような機械が誤作動を起こせば社会は大混乱に陥る」（長尾教授）
首都圏直下型地震はリーマンショック以上の「東京発世界恐慌」のきっかけになるともいわれる。富士山噴火の被害だけでなく、東京が地震に弱い根本的な理由は、その殆どが埋め立て地であることも大きい。
富士山大噴火や大地震が迫るなか、改めて地震予知への期待も高まっている。しかし、東大地震研を中心とした「地震ムラ」のやり方では地震予知は不可能に近いだろう。
駿河湾（静岡県）から足摺岬（高知県）にかかる東南海・南海トラフで巨大地震が起きた場合、最悪30万人の犠牲者が出るが、10分以内に避難すれば80�佑凌佑�助かるといわれる。しかし、長尾教授は「私が働いている三保の松原（静岡県）は、残りの20�諭△弔泙蠅垢案┐欧討盻�からない人が６万〜８万人もいる。その人たちを救うには予知しかない」と予知の重要性を強調する。
■復興庁を「地震火山庁」にしろ
実は阪神・淡路大震災以降、地震観測については大きな変革と進歩があった。パソコンなどデジタル機器の導入だけでなく、国の主導でＧＰＳ連続観測システムを含む高精度かつ高密度の地震観測網を展開・維持することになったからだ。その結果、日本は世界最高水準の地震観測網を得たが、同時に研究者が観測のための観測網維持に忙殺され、肝心の研究が進まないという異常事態を生むこととなった。
また地震予知研究に関する予算の実態も明らかになってきた。たとえば'13年の文部科学省地震・防災研究課の当初予算は約171億円だったが、そのうち大学が実施している地震予知研究（火山噴火予知を含む）はわずか４億円（約２・３�諭法�さらにその多くが地震観測や火山観測の維持・管理などに使われ、真の意味で短期・直前予知研究に充てられた予算は日本全体でわずか年間１千700万円ほど（今年度は約３千万円）だった。
そこには「予知ができたら東大地震研の存在意義がなくなる。彼らは組織維持のため“予知ができない”ことが重要なのだ」（地震学に詳しいジャーナリスト）という背景もある。世界の地震予知研究は統計物理学を中心とした物理学者や、電波工学の専門家が人工衛星で観測を行うなど、地震学者以外のさまざまな学問のプロが加わり、地震学の基礎データを使って予測にあたっている。
長尾氏は「今こそ日本はオールジャパンで地震予知を研究すべきだ。そのために復興庁を『地震火山庁』に改め、各省庁を横断してデータを共有する改革が必要だ」と警告する。
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