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■どんな行為も正当化する米国
昨年末の12月17日、金正日総書記が列車旅行中、心筋梗塞のため車内で急死したと、北朝鮮が発表した。
発表通り病死だったのか、あるいは暗殺されたのか、北朝鮮内の出来事であるだけに、真相は不明だ。同じ年５月、９・11テロの首謀者、アル・カイーダのオサマ・ビンラディン、10月にはリビアのカダフィ大佐が反政府軍によって暗殺された。
金正日の急死で、東アジアの各国は緊張した。北朝鮮内部では’08年から準備してきたとはいうものの金正恩がまだ29歳と若く、’10年に正式に後継者に指名されたばかりのため、「軍事的暴発」を恐れたのだ。
マスコミ、識者の見通しは割れた。
「今回の金正日氏から金正恩氏への権力継承それ自体によっては、北朝鮮には何も大きな変化は起こらないと考えている」（元駐タイ大使岡崎久彦氏。’11年12月22日付産経新聞「正論」）
そして最悪のシナリオとして、広く流布されているのがこうだ。
金正日の死が権威の空白を生み、それが権力闘争に発展していく。金正恩は指導者としての求心力を高めるため、韓国攻撃や核実験などの挑発行動に出てくる――。
しかし、北朝鮮に大きな影響力を持つのは中国であり、米国である。とくに、米国のそれは決定的だ。なぜそういえるのか。
論文などで政府の見解と異なる主張をしていたことが発覚して、自衛隊を退官した田母神俊雄元航空幕僚長は、「米国は北朝鮮情報で日本をコントロールしている」と自著や夕刊紙などで明言している。「核の悲劇を繰り返さないために日本は核武装すべき」（’09年８月、広島での講演）という過激発言もあるが、防衛大卒の元航空幕僚長の発言だけに重い。
米国シンクタンクＳＲＩインターナショナル（元スタンフォード大学付属研究所）で、技術覇権の視点から米国覇権主義者の戦略情報力のすごさを目の当たりにみてきた早稲田大学ビジネススクールの山本尚利教授は、「米朝関係は基本的には“八百長”だ」とみる。
山本教授が語る。
「私は米国覇権主義者といっているんですが、彼らは国益をものすごく大事にする。いい換えれば、国益を守るために、あらゆる行為を正当化しようとする。あるいは正当化できるようになんでもやってしまう。イラク戦争もそうだったし、ビンラディン殺害もそうだ」
北朝鮮に対しても、米国は核施設の存在に対して、いろいろと注文をつけてきた。だが、その北朝鮮の核施設については、当の米国が一枚噛んでいると疑われている。
■スーパーノートの真犯人は？
「北朝鮮の軽水炉技術は、一般には核技術者アブドル・カーン博士が仲介したといわれているが、実際は違うようだ。ドナルド・ラムズフェルド元国防長官は’90年から’01年までスイスの電力機器メーカーＡＢＢの役員を務めていたが、ＡＢＢは’00年初頭、北朝鮮政府から原子炉（軽水炉）２基を受注している。
その直後、’00年５月ＡＢＢは原子力事業部門を英国原子力燃料会社（ＢＮＦＬ）に売却した。その年、英国は北朝鮮と国交を樹立している。さらに、ＢＮＦＬが所有していた米国原子力機器メーカー・ウェスチングハウス（ＷＨ）は’06年、東芝に売却された。そのＷＨにはＡＢＢの原子力事業部門が含まれている。金正恩は、スイスに留学していたのです」
（前出、山本教授）
もちろん、ラムズフェルド氏は、原子炉の件について、公式に認めてはいない。彼らはこうして北朝鮮に核の脅威をつくり出して日本をおどし、米国製のＰＡＣ３（地対空ミサイル）を日本に購入させたのである。
一方、北朝鮮も原子炉を持ったが故に、ウラン濃縮施設、核兵器の存在を疑われ、米国に攻撃の口実を与える結果になっているのである。
彼らが駆使するもう一つの「武器」が、偽米100ドル札、スーパーノートだ。昨年３月、北朝鮮で偽ドル札偽造などに関わっていたとして拘束されていた日本人が今年になって釈放されたという報道があった。だが、スーパーノートは誰が作っているのか。
米国は’05年９月15日、マカオにある「バンコ・デルタ・アジア（ＢＯＡ）」を「マネーロンダリングの懸念がある金融機関」と認定して、マカオを舞台にした北朝鮮の偽米ドル札の問題を攻撃し始めた。
しかし、米国が起こしたこの騒ぎは、あらぬ方向に発展していった。「米国犯人説」が濃くなったのだ。
‘07年５月、スイスの刑事警察偽造通貨局が発行した報告書は、六つの理由をあげて北朝鮮製造説を否定してみせたのだ。米国と名指しはしていないが、米国の関与を大いに疑わせる内容だった。
■陸軍中野学校を意識した工作
そのころ、ドイツの保守系有力紙「フランクフルター・アルグマイネ」のベテラン記者、クラウス・ベンダー氏が「偽米ドルはアメリカのＣＩＡによる自作自演だ」と書いて、世界中に波紋を巻き起こした。
元外務官僚でシンクタンクを経営する原田武夫氏は、『北朝鮮2アメリカ―。「偽米ドル」事件と大国のパワーゲーム』（ちくま新書）で、そのベンダー氏に電子メールで質問したときの答えを紹介している。
「北朝鮮の人たちにとって技術的に不可能である」「おそらくは米国の情報機関が犯人である」は、欧州の高度印刷機メーカーや刑事警察の幹部たちの間では広く流布している見解だ、ということだった。
スーパーノートは’89年に初めて発見されたが、それを機に米国が騒ぎ立てた「疑惑の国」を並べていくと、面白いことがわかる。イラン、シリア、北朝鮮などだが、いずれも米国が“攻撃の口実”を探していたと思われる国々なのだ。
北朝鮮ウオッチャーによると、北朝鮮の工作活動は日本の旧陸軍中野学校を意識しているという。たしかに中野学校は登戸研究所と連携して偽札を刷り中国で使用してインフレを起こさせようとした。
米国内には、こうした手法にノーという政治家がときどき出てくる。
今回は共和党ニューハンプシャー州予備選で「政府機能の極端な縮小」を唱えて２位につけたリバタリアン（自由至上主義者）のロン・ポール下院議員だ。ケネディと同じ連邦準備制度理事会などの廃止を訴えているだけではない。米国の覇権主義者たちは、戦争のためにその相手となる敵（仮想敵国）をつくり上げている。だからそういう国づくりを止めれば米軍さえ不要になる、との論法だ。極端だが、米国の若者に受けている。
いま米国は、イラン、代替として北朝鮮を仮想敵国に据えようとしている。１月11日、テヘランで科学者が暗殺された。イランは米国の挑発に乗るまいとして必死だが。
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